ヨーロッパ初の規模で国宝級文化財を展示

去る、4月25日、ドイツ連邦共和国美術展示場(ドイツ・ボン市)において、醍醐寺展「聖なる山の寺宝-醍醐寺・日本密教の僧院」が開会した。

この展覧会は、10年来、醍醐寺において計画されていたもので、平成21(2009)年に迎える「聖宝理源大師1100年御遠忌」を記念して、実現した。

挨拶するクリストフ・ビタリ館長

挨拶するクリストフ・ビタリ館長

開会に先立ち、24日にはオープニングの開会式が行われ、3300人が来場。同館館長のクリストフ・ビタリ(Christoph Vitali)氏が挨拶。「千年以上の長い歴史の中に伝わる多くの寺宝、文化財を当館で展示できる喜びを醍醐寺、及び、東京国立博物館、奈良国立博物館の関係者に感謝する。私は、昨年、この館の館長の職につき、醍醐寺についても密教についても何も知らなかった。しかし、その魅力に既に魅せられている。これだけの貴重な国宝級の展示がそろった展覧会は欧州で初めてではないだろうか?日本文化のより深い理解に役立つだろう。この館も展示場全てが埋め尽くされ、今日も多くの来館者をお迎えし久しぶりに賑わいを取り戻しています。特にこの展覧会の企画を始めたヤコブ前館長に敬意を払いたい」と挨拶。

続いて、仲田順和執行長が「醍醐寺1100年の祈りの中に伝承されてきた多くの寺宝を通して、日本の木の文化、紙の文化をヨーロッパの石の文化の中で紹介したい。そして、密教の教えは、キリスト教でも世界観を象徴するのに使われる、この世界の構成要素(element)である大地(土)と、水(水)、太陽に象徴される火(火)、そして空気(風)。さらに密教ではこの4つの構成要素の中心に心(空)をおきます。心を中心とした祈りの世界を表す象徴として様々な仏像や仏画などを生み出し、現代まで伝えられています。是非、現在も生かされている祈りの世界を感じて下さい」と挨拶。併せ、今も醍醐寺は新しい文化を育んでいることを説明し、その代表として、今回の醍醐寺からの訪問団にも参加し、本展覧会にも襖絵が展示されている浜田泰介画伯ご夫妻を紹介した。その後、佐藤禎一東京国立博物館館長が、「醍醐寺の文化財は、天皇、貴族、将軍、大名、そして民衆と多くの人々の祈りの中に支えられ伝承されてきました。今回70点以上の国宝・重要文化財を展示する日本でもなかなか実現できない展覧会をこのボンで開けることに心より感謝致します。どうぞ密教文化、日本文化の神髄をお楽しみ下さい」と続けた。

最後に、ボン市のバルベル・デェックマン(Bärbel Dieckmann)市長が、「ボンと日本の友好の歴史は長く、日本の代表する寺院の醍醐寺の展覧会をすることは大変光栄です。この展覧会を通じ、益々、日本とドイツの友好が深まるとともに、多くの方にボンへ訪れていただき、この館の素晴らしさを知っていただきたい。私の家はこの展示館のすぐそばにあるので、毎日何名の来場者があるか数えています。」とユーモアをまじえて歓迎の挨拶をのべた。開会式後、招待者への内覧会が始まり、ビタリ館長、デェックマン市長の先導で、招待者が次々と館内へと案内され、仲田執行長、壁瀬執行を始めとする醍醐寺からの訪問団も招待者とともに会場内へ入り、展示を鑑賞した。会場内はあっという間に人で埋め尽くされ、予定を超える3362名の来場者で館内はいっぱいとなり、招待者は、醍醐寺の祈りの世界、密教美術の世界を堪能していた。

一座法要の厳粛な祈りと密教の宇宙観が融合した展示会場

また、開会式に先立ち、午前11時から記者会見が行われ、展覧会の趣旨、企画、内容などの説明がされ、あわせ記者団に展示が公開された。続いて午後1時より、展示場内に設置された今回の展覧会の一つのテーマでもある「今も生きる祈りの世界」を表す「大檀」の展示スペースにおいて、仲田執行長御導師のもと訪問団僧侶(壁瀬宥雅師、仲田順英師、藤澤寛秀師、三好祥徳師、龍見龍傳師、池上裕全師)が出仕して一座法要が厳修された。

一座法要

一座法要

シンプルに統一された展示会場

シンプルに統一された展示会場

地元メディアを始め、ヨーロッパ各国、また日本からの取材もあり、この展覧会の規模の大きさに驚きの様子であった。

館内の展示場は、全体の展示デザインを、ヨーロッパでは空間デザイナーとして有名なイタリア人デザイナー、パオロ・マルテロッティー(Paolo Martelotti)氏が担当。会場は、テーマごとにうすい青、ピンク、淡いベージュ、緑、赤などの独特の色使いと、まる、三角、四角によって密教の宇宙観をイメージするように展示台や壁が統一されており、来場者は次のスペースへ自然と移ることができ、シンプルな中に、寺宝一つ一つを身近に感じることができ、その魅力が引き出されている。

展示の内容も、担当学芸員の智恵・シュタイネック(Tomoe Steineck)氏を中心に、アンジェリカ・フランケ(Angelica Francke)企画長を始めとするスタッフが丹念に作り上げており、大変分かり易く丁寧な展示となっている。

心静かに語りかける国宝・重要文化財の数々

会場入口

会場入口

会場は、入り口に、麻生文雄座主猊下の「醍醐寺」と書かれた垂れ幕が下がり、まず、浜田泰介画伯による三宝院大玄関の襖絵「月と桜」の絵が来場者を迎える。最初のコーナーでは日本の京都にある醍醐寺の概要が説明され、次に大乗仏教から密教への流れが、国宝「絵因果経」(奈良時代)を中心に、諸仏、諸菩薩の仏像、仏画などによって説明されている。次に、金胎両部の大日如来と、聖宝理源大師像に迎えられ、醍醐寺を中心として密教の教えが表され、続いて、醍醐寺に伝わる密教美術の華麗さが五大尊像(国宝・鎌倉時代)、如意輪観音座像(重要文化財・平安時代)などを中心に表現されている。次に、映像スペースがあり、展示館のメディア担当主任のウルリッヒ・ベスト(Ulrich Best)氏により40分間の醍醐寺の紹介ビデオが放映されている。この映像は、この展覧会に先駆け、昨年秋にベスト氏を中心とした4名のスタッフが醍醐寺へ来山し、一週間にわたり撮影したフィルムをもとに作られたもので、醍醐寺、そして、密教の教えを分かり易く紹介している。続いて、ヨーロッパでは初めての展示内容となる修験道についての展示が、山をイメージしたコーナーに展示されている。最後に、俵屋宗達筆の「舞楽図」(重要文化財)など、醍醐寺に伝わる日本を代表する絵画が展示され、展示の内容をゆっくりと心静めて振り返られるようになっており、まさに、醍醐寺、そして密教を肌で感ずることが展示内容となっている。

内覧会終了後にはレセプションが行われ、主賓、展示会会場関係者、醍醐寺、東京国立博物館、奈良国立博物館の関係者が一同に会し、醍醐寺からの訪問団も参加し、開会を祝した。

明くる25日からは、一般公開が始まり、午前10時30分から前日と同様、仲田執行長導師で法要が行われ、会場内に響く読経の声に、訪れた人々は、法要が終わるまでしばし足をとめ読経に聞き入っていた。

醍醐寺の祈り

柴燈護摩

柴燈護摩

本展覧会開催中、醍醐寺では、5月28日に一座法要を厳修。ついで、6月29日、声明公演及び柴燈護摩を厳修し、今も生きる日本の伝統的な祈りの世界を実践した。法要には、本山僧侶を始め、宗会議員、本派僧侶、醐山青年連合会の青年僧侶の有志が出仕し、行われた。

法要前日の28日は朝から、展示館横の、広場において、柴燈護摩道場の作壇準備を行った。日本と同じ作壇を行うため、現地のスタッフの皆さんが苦労して壇木、土、石、その他道具などを日本から送った資料を元に準備を整えてくださった。午後からは、声明法要を行う、展示館内のフォーラム(コンサートホール)において、準備と習礼を行った。今回の声明で使う壇や仏器は、昭和63年9月にドイツ・ケルン市の東アジア美術館で行われた「密教美術展」の折、醍醐寺が同美術館に寄進したものをご厚意により使わせていただいた。フォーラム(イベント担当)のステファン・アンドレ氏他、スタッフの方々の協力により、両法要の準備は滞りなく整った。

29日当日は、午前8時から柴燈護摩の最終準備を整え、午後0時半より柴燈護摩を厳修。仲田順和執行長を大祇師に、美術展示館屋上から横の広場に向かって階段を下りる形で進列を行い、日本で行うのと同じように荘厳された道場に入道。展覧会の無魔成満と日独友好、世界平和の願いを込めて願文が読み上げられ、柴燈護摩一座を厳修。今回の法要に会わせ、日本より参加した訪問団のメンバー、展示館関係者を始め、醍醐寺展の入館者など約500名が参列。燃えさかる護摩の火に手を合わせる姿も見受けられ、また、ドイツの方々も、日本から今回の法要に会わせ持って行った願木に願いを書いて、護摩に投じた。醍醐寺としては既に5回目の欧州での柴燈護摩であった。

続いて、午後3時から展示館内の400名収容のコンサートホール「フォーラム」において、声明法要が執り行われた。今回の声明法要は舞台中央に大壇を置き、職衆が観客へ向かって祈る、公演形式の法要で、仲田順和執行長を御導師のもと、呪立の「五大力尊仁王会法要」を一座厳修した。法要は、まず、舞台両袖から吹螺を先頭に入場、舞台後ろで、庭讃を唱えたのち、舞台へ登った。散華のち表白が読み上げられ、人身堅固、世界和平、展覧会の無魔成満を祈念。引き続き、前讃、唱礼、呪と続き、最後に、太鼓の力強い響きのなか、般若心経をお唱えし、加持棒での祈願を行い法要を終了した。会場は、法要中静まりかえり、手をあわせ涙をながしながら法要を聞き入る人もいた。終了後は加持棒や散華を拾う方々もみられ、ヨーロッパでの仏教への関心の高さを肌で感じることができた。海外での声明法要も、スイス・ジュネーヴで2回、フランス・パリで1回、今回で4回目となったが、祈りの心は万国共通であることを改めて感じる一瞬であった。

両法要とも、ドイツだけでなく、ヨーロッパ諸国からたくさんの方々が来場され、仏教への関心の高さを感じた。今も生きる日本の伝統的な祈りの世界を展覧会の開館期間中に「もの」だけでなく実際の祈る姿を、歴史と伝統を重んじるヨーロッパで紹介できたことは、非常に意義深い事であった。

ドイツ連邦美術展示館では、この法要を中心に日本を紹介する特別週間として、その他にも日本の伝統文化や映画、音楽などを紹介する様々なイベントが行われていた。