(※三橋玄さんの作品は、現在、下伽藍清瀧宮前に展示されており、開館時間中、平成25年8月31日までご覧いただけます。)
8月の1日から7日間、醍醐寺で生活させていただきながら、「清瀧宮本殿」の前に作品を作りました。清瀧様は弘法大師様について海を渡ってきたためにサンズイが付いた青龍だそうで、水を司る龍神様です。弘法大師様の孫弟子である聖宝理源大師様が上醍醐山上で醍醐水の霊泉を得たことから醍醐寺の歴史が始まります。今回の私の作品は、水をモチーフにしています。
作品中央の地面から湧き上がった水は、うねりとなって盛り上がり、世界へひろがっていきます。そのひろがりには二つの性質、方向性があります。向かって右側は、川の流れのように、溶岩のように、地表を覆い、低い方へ流れ、地中へ浸透していきます。左側は、風にのって舞い上がり、細かな滴になり、気体となり、空へ向かって拡散していきます。天と地へひろがる二つの水は世界を循環し、命もまた世界を巡るのです。私はそのエネルギーを、竹のしなやかさをもって表現しようとしました。
8月3日からは今年で47回目を迎える「少年少女の集い」と合流し、子どもたちと竹を割り、作品の一部を作りました(作品左側の滴の翼の先端の5つの滴が蓮の花となっている部分で、未来を表しています)。
8月5日の「万灯会」はあいにくの雨となりましたが、雨が弱まるのを待ってロウソクを灯しました。そのロウソクは、天然の蜜蝋だけを使って、ひとつ一つ手で作られたロウソクです。火もまた世界を巡るいのちの根源エネルギーであり、火の力なくして水の循環は起こりません。ここで水と火が出会い、竹にいのちが吹き込まれたのです。
醍醐寺のお坊様から「如意」という言葉をいただき、タイトルとしました。 如意輪観音様は、あなたの内面を映す観音様だそうです。あなたの心が優しいときは、優しい微笑みを、あなたが怒っていれば、怒ったお顔を、あなたに向けるのです。 私は、観る人によって様々に観えるもの、これは○○です、と規定できないものを作りたいと思っています。それは私が自由な精神の遊びを求めているからです。私が作ったものに何を見るかは、あなた次第。作品の周りを歩くと、角度が変わって別のものが浮かびあがってくるでしょう。陽が傾けば、違った表情が現れるでしょう。世界はとどまることなく、今この瞬間も移ろっているのです。
破壊と汚染を乗り越えて新しい時代を開くための混迷の中にある今、私たちが本当に求めるものが何なのかを考えることは大切なことです。これまでの飢えや乾き、恐怖に駆られた発展を止め、自然と共生した生活を実現するために私たちは、私たちが本当に欲するものを見定めなければなりません。 自由に夢が見られても悪夢を見るのが人間です。「如意」とは、一般的に使われるように「全てが自分の意のままになる」ことではないと思います。私たちが真に求めるものは何なのか、という問いの中に、私たちの未来があります。
この制作の機会を与えてくださった皆様、援助していただいた皆様、いっしょに作ってくださった皆様、閃きと示唆を与えてくださった皆様、ありがとうございました。